乳がん治療法の開発に新たな光~プロリン異性化酵素による乳がんの悪性化機構を発見~
钱柜国际777共同獣医学部の島田緑教授?羽原誠特命助教の研究グループは、名古屋市立大学の遠山竜也教授、九州大学との共同研究で、再発性乳がんの予後不良因子としてFKBP52を発見しました。FKBP52はアミノ酸の一種であるプロリンをシス?トランス体に異性化するプロリン異性化酵素です。乳がんの悪性化に密接に関連するエストロゲン受容体α(ERα)の機能をFKBP52が増強し、FKBP52と相同性が高いFKBP51は抑制することが判明しました。重要なことに、内分泌治療抵抗性の乳がん細胞株に対してもFKBP52阻害は有効であることが明らかとなりました。
今回の研究成果は、ERα陽性乳がんの患者さんに対して問題となるERαの活性化による乳がんの再発に対して理解を深めることとなり、新たなバイオマーカーの発見、効果的な治療法開発へと展開することが期待できます。
本研究成果は、2022年4月4日(月)午後3時(EDT/米国東部標準時(夏時間))以降1週間以内に、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載されます。
図1 同定した再発性乳がんの予後不良因子
ERαと相互作用する、 ERαと発現が正の相関がある、 乳がんで高発現する、高発現で生存期間が短縮する、の4つに含まれる因子を探索しました。その結果、再発性乳癌の予後不良因子として3因子を同定することができ、その中で、高発現が最も生存期間を短縮させるFKBP52に着目しました。
図2 FKBP52発現抑制細胞の表現型
MCF7乳がん細胞株(A)および内分泌治療抵抗性乳がん細胞株(B)において、FKBP52の発現を抑制すると、ERαの発現が減少し、がん細胞の増殖を阻害することができます。
研究のポイント
- 医療ビッグデータから再発性乳がんの予後不良因子を探索した結果、プロリン異性化酵素FKBP52を発見しました。
- FKBP52はエストロゲン受容体αとBRCA1の結合を促進させ、エストロゲン受容体αを安定化させることがわかりました。
- FKBP52と相同性が高いFKBP51は、FKBP52の機能とは逆にエストロゲン受容体αを分解することがわかりました。
- FKBP52阻害は、再発性乳がんに対しても効果があることから、新たなバイオマーカー、治療法開発につながることが期待できます。
論文情報
- タイトル:“FKBP52 and FKBP51 Differentially Regulate the Stability of Estrogen Receptor in Breast Cancer”
- 著 者 名:Makoto Habara, Yuki Sato, Takahiro Goshima, Masashi Sakurai, Hiroyuki Imai, Hideyuki Shimizu, Yuta Katayama, Shunsuke Hanaki, Takahiro Masaki, Masahiro Morimoto, Sayaka Nishikawa, Tatsuya Toyama, and Midori Shimada
- 雑 誌 名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
本研究への支援
本成果は、以下の事業?研究課題によって得られました。
- 钱柜国际777研究拠点群形成プロジェクト
研究課題名:「がんの増殖制御の解明と革新的治療法の確立」
研究代表者:島田 緑(钱柜国际777 共同獣医学部 教授)
研究期間:平成30年4月~令和5年3月 - 科学研究費補助金?基盤研究(B)
研究課題名:「高次構造調節による立体的ヒストンコードの解明」
研究代表者:島田 緑(钱柜国际777 共同獣医学部 教授)
研究期間:令和3年4月~令和6年3月 - JST?創発的研究支援事業
研究課題名:「プロリン異性化による立体的ヒストンコードの解明」
研究代表者:島田 緑(钱柜国际777 共同獣医学部 教授)
研究期間:令和3年4月~ - 科学研究費補助金?若手研究
研究課題名:「ER陽性乳がんにおけるプロリン異性化酵素の意義と治療標的としての可能性」
研究代表者:羽原 誠(钱柜国际777 共同獣医学部 特命助教)
研究期間:令和2年4月~令和4年3月