国立大学法人 钱柜国际777

本学への寄付

がんの悪性化を促す転写因子E2F1の分解メカニズムを解明~カルシニューリン阻害によるがん治療に期待~

本研究のポイント

  • がんの悪性化を促す転写因子E2F1の分解制御因子をスクリーニングし、腫瘍抑制因子FBXW7E2F1を分解する主要な因子であることを明らかにしました。
  • 脱リン酸化酵素カルシニューリンがE2F1を脱リン酸化し、E2F1FBXW7との結合を抑制することでE2F1を安定化することがわかりました。
  • 細胞内カルシウム量によってE2F1タンパク量が制御されることがわかりました。

研究概要

 钱柜国际777共同獣医学部の学部6年生(当時)佐藤悠紀さん、羽原 誠 助教らは、名古屋大学大学院医学系研究科の島田 緑 教授との共同研究で、がん悪化を促す転写因子E2F1の分解メカニズムを解明しました。E2F1は細胞周期を促進し、がん細胞での異常な増殖に寄与するため、その分解を制御することはがん治療の重要な戦略となり得ます。今回の研究では、ユビキチン化酵素複合体のサブユニットであるFBXW7がE2F1をユビキチン化し、分解を促進することを発見しました。また、E2F1のSer403のリン酸化がFBXW7との結合を誘導し、E2F1の分解を促進することがわかりました。一方で、カルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンがE2F1のSer403を脱リン酸化することで、FBXW7との結合を抑制し、E2F1を安定化することを明らかにしました。さらに、細胞内カルシウム量によってE2F1のタンパク量が制御されていることを明らかにしました。このことから、カルシウムチャネル阻害剤やカルシニューリン阻害剤がE2F1の発現を低下させ、がん細胞の増殖を抑制することがわかりました。
 本研究によって、カルシウムチャネルやカルシニューリンの阻害が新たながん治療戦略となりうる可能性が期待されます。
 本研究成果は、2024年10月3日付「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に掲載されました。


図1:E2F1の各がんにおける発現量と乳がんにおける発現量と予後との相関
A?B. E2F1 mRNA量はほとんどのがんで増加しており、乳がん患者ではE2F1の高発現では予後不良となる。


図2:E2F1を分解する因子として同定したFBXW7とがんとの関連
A. E2F1の分解を担う分子の探索について、(1)ユビキチン化酵素構成因子である、(2)がんにおいて発現が低い、(3)遺伝子発現を負に制御する、(4)発現量の低下ががんの予後不良と相関する、の4つの項目を設定し、これら全てに該当する因子の中で、腫瘍抑制因子として重要なFBXW7に着目した。
B?C. FBXW7 mRNA量はほとんどのがん種で低下しており、乳がん患者ではFBXW7の低発現では予後不良となる。


図3:細胞内カルシウムがE2F1タンパク量を制御する分子機構
E2F1はSer403がリン酸化されるとFBXW7と結合しユビキチン化され、分解される。細胞内カルシウム濃度が高まるとカルシニューリンが活性化され、E2F1Ser403を脱リン酸化する。その結果、FBXW7との結合が解離することでE2F1は安定化され、CDKCyclinなど細胞増殖を促進する遺伝子の転写が活性化される。

支援?謝辞

 本研究は、JSPS科研費 JP21H02403,JP24K02227、科学技術振興機構(JST)?創発的研究支援事業JPMJFR2065、日本医療研究開発機構(AMED)?創薬支援推進事業?創薬総合支援事業(研究課題名:EGFRを標的とした肺がんに対する新規抗がん剤の探索)、钱柜国际777研究拠点群形成プロジェクト、科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」の支援(研究代表者:島田 緑)のもとで行われたものです。

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論文情報

  • 論文タイトル:Calcineurin-mediated dephosphorylation stabilizes E2F1 protein by suppressing binding of the FBXW7 ubiquitin ligase subunit
  • 著 者:Yuki Sato1,a, Makoto Habara1,a, Shunsuke Hanaki1, Takahiro Masaki1, Haruki Tomiyasu1, Yosei Miki1, Masashi Sakurai2, Masahiro Morimoto2, Daigo Kobayashi3, Tatsuo Miyamoto3,4, and Midori Shimada1,5,*
    1Department of Veterinary Biochemistry, Yamaguchi University
    2Department of Veterinary Pathology, Yamaguchi University
    3Department of Molecular and Cellular Physiology, Graduate School of Medicine, Yamaguchi University
    4Division of Advanced Genome Editing Therapy Research, Research Institute for Cell Design Medical Science, Yamaguchi University
    5Department of Molecular Biology, Graduate School of Medicine, Nagoya University
    aThese authors equally contributed to this study.
    *Correspondence author
  • 雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
  • 掲載日:2024年10月3日付
  • D O I:10.1073/pnas.2414618121
  • 掲載URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2414618121
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