多様なレトロウイルス感染から家猫を守る分泌性タンパク質の同定
钱柜国际777共同獣医学部 獣医感染症学研究室の西垣一男教授らの研究グループは、ネコ白血病ウイルスなど、様々なレトロウイルスの感染を阻止する分泌性タンパク質が家猫に存在することを突き止めました。この研究成果は、感染症の新たな予防法および治療法を確立する手助けとなることが期待されます。
ネコ白血病ウイルス(Feline Leukemia Virus、以下FeLV)は家猫(学名 Felis catus)に貧血やリンパ腫?白血病という造血器系の病気を引き起こすレトロウイルスです。ウイルスが動物に感染するための第一歩として、細胞の表面に存在する感染受容体との結合が必要です。FeLVには様々な種類のウイルス株が存在し、異なる感染受容体を使用します。例えば、FeLV-Aの感染受容体はビタミンB1の輸送体であるTHTR1であり、FeLV-Bの感染受容体はリン酸の輸送体であるPitという分子であることが知られています。
家猫の間で伝播しているのはFeLV-Aというタイプのウイルスです。不思議なことに、FeLV-Aが家猫に感染した後、体内でウイルス遺伝子の組換えが生じることによって、FeLV-Bという新たなウイルスが出現しますが、FeLV-Aとは異なり、FeLV-Bは家猫の間で伝播しません。そこで、このウイルス伝播の不思議な現象の解明に挑戦しました。家猫のゲノムを解析したところ、家猫にはFeLIX(フェリックス)という分泌性のタンパク質が存在し、それがFeLV-Bのウイルス感染を阻止していることを発見しました。FeLIXは古代ウイルスとして知られている内在性レトロウイルス(脚注1)によってコードされ、ウイルスのエンベロープ遺伝子を起源としています。遺伝子解析から、FeLIXは今から約70万年前に家猫の祖先に感染した古代ウイルスが由来となっており、家猫だけではなくヨーロッパヤマネコ(学名 Felis silvestris)にも存在することが明らかとなりました。FeLIXによるFeLV-Bの感染制御のメカニズムは、FeLV-Bの感染受容体をFeLIXが覆い隠すことによってウイルス感染を抑制していると考えられます。FeLIXは分泌性タンパク質であり、リンパ球から放出され、家猫の血液中を循環しており、ウイルスの細胞侵入を広く阻害する第一線で機能していると考えられます。さらには、テナガザル、コウモリ、コアラといった様々な動物種でFeLV-Bに類似したレトロウイルスが感染を拡げているのですが、これらのウイルスに対してもFeLIXは感染の抑制に効果を示すことを突き止めました。つまり、FeLIXは感染防御因子として機能し、多様なレトロウイルスから家猫を守っていると考えられます。
本研究成果は米国の微生物学会によって発行されている「Journal of Virology」において、2024年3月5日に公開されました。
〔脚注1〕
内在性レトロウイルス:生物のゲノムには過去に感染したレトロウイルスのゲノム配列が存在する。例えばヒトゲノムでは約8%を占めることが知られている。
図の説明:家猫は内在性レトロウイルス由来の分泌性タンパク質であるFeLIX(フェリックス)を持っており、様々な動物のレトロウイルス(GaLV, HPG, KoRV-A, FeLV-B)の伝播を阻止すると考えられる。〔絵:田中美優(2023年3月本学共同獣医学部卒)〕
発表論文の情報
- タイトル:FeLIX is a restriction factor for mammalian retrovirus infection
- 著 者:Didik Pramono、武内大、甲木雅人、 Loai AbuEed、 Dimas Abdillah、木村透、川崎純菜、 三宅在子、西垣一男
- 所 属:
钱柜国际777共同獣医学部 獣医感染症学研究室:Didik Pramono、 武内大、甲木雅人、Loai AbuEed, Dimas Abdillah、三宅在子、西垣一男
钱柜国际777共同獣医学研究科:木村透
早稲田大学 理工学術院総合研究所:川崎純菜 - 掲載雑誌:Journal of Virology
- 掲載日:2024年3月5日
- DOI:https://doi.org/10.1128/jvi.01771-23
謝 辞
本研究成果は、以下の研究費の支援を受けて得られました。
- 科学研究費補助金?基盤研究(B)
研究代表者:西垣 一男
研究課題番号:20H03152、23H0239
お問い合せ先
钱柜国际777 共同獣医学部 獣医感染症学研究室
教授 西垣 一男
E-mail: kaz@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)