環境DNA分析に基づく新しい系統地理調査-バケツ一杯の水から魚の地域分化を解明-
概要
钱柜国际777大学院創成科学研究科(工学系学域)社会建設工学分野の赤松良久教授、流域環境学講座の中尾遼平准教授(特命)、京都大学 理学研究科 辻冴月 日本学術振興会特別研究員PD、同 渡辺勝敏 准教授、(株)環境総合リサーチ芝田直樹(研究当時、現:タカラバイオ(株))、福岡工業大学 乾隆帝 教授らの研究グループは、環境水に含まれる生物由来のDNA(環境DNA)注1を分析するだけで、複数種の系統地理を同時に推定することができる新手法の開発に成功しました。
生物種内における遺伝的な地域性や系統分化は、種の分布や進化の過程を推測するための重要な手がかりです。しかし、この遺伝的な違いを調べる系統地理調査は多地点から対象種を多数個体捕獲し、組織DNAを個別に分析する必要があるため、多大な労力や時間を要します。そこで本研究では、環境水に含まれる環境DNAから効率的に正確な系統地理情報を取得する手法の開発を試みました。最大の課題であった偽陽性配列(実験の途中で必ず生じる本来存在しない配列)の除去のための効果的なデータスクリーニング方法を考案、適用した結果、対象とした淡水魚5種すべてについて、一般的な捕獲調査と同様の地域分化パターン(遺伝的集団構造)の情報を得ることに成功しました。本手法は、これまでにない簡便かつ効率的、非侵襲的な調査を実現し、系統地理研究を通じた生物多様性の理解に大きく貢献することが期待されます。
本成果は、2023年3月7日(現地時間10時01分)に国際学術誌「Molecular Ecology Resources」にオンライン掲載されました。
用語解説
- (注1)環境DNA:生物が自身の生息環境中(水中や土壌中など)に放出したDNA物質の総称。魚類の場合は、排泄物や粘液、表皮、精子などに由来する。
発表論文の概要
- タイトル:Environmental DNA phylogeography: successful reconstruction of phylogeographic patterns of multiple fish species from cups of water(環境DNA系統地理:水から複数種の系統地理パターンを明らかにする)
- 著者:Satsuki Tsuji, Naoki Shibata, Ryutei Inui, Ryohei Nakao, Yoshihisa Akamatsu, Katsutoshi Watanabe
辻冴月 (京都大学大学院理学研究科、钱柜国际777大学院創成科学研究科)
芝田直樹 ((株)環境総合リサーチ)
乾隆帝 (福岡工業大学社会環境学部)
中尾遼平 (钱柜国际777大学院創成科学研究科)
赤松良久 (钱柜国际777大学院創成科学研究科)
渡辺勝敏 (京都大学大学院理学研究科) - 掲載誌:Molecular Ecology Resources
- 公表日:2023年3月7日
- DOI:10.1111/1755-0998.13772
謝辞
本研究は、日本科学協会笹川科学研究助成(202-5001)およびエスペック地球環境研究?技術基金、钱柜国际777YUプロジェクトの研究助成を受けて実施されました。