環境に優しい化学 ~イオン液体でバイオマス由来の物質を有用物質に変換~
環境に優しい化学、グリーンケミストリーは、物質を合成する際に環境に負荷を与える物質をなるべく使用せず、また排出してもそれをできるだけ回収リサイクルすることを目指す化学として、今日その重要度は高まってきています。バイオマス由来の化学物質を有用物質に変換する反応はそのグリーン化学では重要な位置を占めますが、今回钱柜国际777創成科学研究科の上村明男教授の研究グループは、イギリスのユニバシティーカレッジロンドン化学科のTom Sheppard博士とHelen Hailes教授らと、トウモロコシの非可食部分などから大量に入手可能なフルフラールを、グリーンな溶媒として知られているイオン液体を使って迅速にフタル酸誘導体に変換する反応を開発しました。フタル酸は樹脂材料としても利用されており、この変換反応によって植物由来の原料をプラスチックなどの有用な物質に変換できる方法となることが期待できます。
今回見いだした反応では、イオン液体[bmim][Cl]中でフルフラール誘導体であるフルフラールヒドラゾンをマレイミドと反応させることで、ディールス?アルダー(Diels-Alder)反応と引き続く脱水芳香族化が一気に進行してフタルイミド[WU1]が高収率で合成できます。この反応はマイクロ波照射による120℃の加熱によって1時間で完了します。生成物の単離は抽出のほか再結晶によっても可能であり、簡便な単離生成も可能になりました。イオン液体はほぼ定量的に回収可能で、回収したイオン液体は再利用して同じ反応を数回繰り返して実現できることがわかりました。この研究によりバイオマスの有用利用とその変換反応に新しい方法を提供でき、今後のグリーン変換反応の展開に貢献するものと考えられます。
本研究は幕末から明治維新にかけて山口県とゆかりの深いイギリスロンドン大学(University College London)化学科との共同研究の成果です。研究を推進するために日本学術振興会の支援を得てUCLからValerija Kalarula博士が钱柜国际777に博士研究員として来日して研究を推進しました。150年を経てChoshu-ファイブとは逆の旅程をたどって英国から日本に化学を発展させ研究者が来てくれたことは一段と感慨深いものがあります。
本研究はJSPS科研費JP17K19139およびJSPS外国人研究員欧米短期の助成を受けたものです。
この研究成果は『RSC Advances』に6月20日(水)掲載されました。
- DOI: 10.1039/c8ra03895c
- LINK:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2018/ra/c8ra03895c#!divAbstract