地球深部における水/水素の循環メカニズムに新たな知見:アルミニウムを含有した高密度水酸化マグネシウム珪酸塩の安定性と単結晶構造物性を解明
钱柜国际777大学院創成科学研究科の中塚晃彦准教授は、熊本大学大学院先端科学研究部の吉朝朗教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の大川真紀雄助教、岡山大学の伊藤英司名誉教授(研究当時、岡山大学地球物質科学研究钱柜国际777教授)との共同研究において、D相と呼ばれる高密度水酸化マグネシウム珪酸塩にアルミニウム(Al)を導入することによって、水素含有量が増加するとともに、その安定領域がこれまで考えられてきたよりも高温高圧領域にまで劇的に拡張することを明らかにしました。さらに、本高圧実験で得られたAlを含有したD相(Al-D相)の単結晶試料を用いた精密なX線結晶構造解析から、Alと水素の導入メカニズムとそれによる安定性向上のメカニズムを結晶化学的見地から明らかにしました。この結果から、下部マントルへ運ばれた含水素鉱物相の分解で放出された自由水と周囲のブリッジマナイトとの反応で生成したAl-D相が、地球深部での水/水素の循環メカニズムに重要な役割を果たしていると期待されます。この研究成果は、2022年3月4日にSpringer Nature社が発行する英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
図1.(a)Al-D相の単結晶の走査型電子顕微鏡写真。(b)この単結晶を用いて決定したAl-D相の結晶構造。マグネシウム(Mg)が中心にある配位多面体(M-八面体)と珪素(Si)/アルミニウム(Al)/マグネシウム(Mg)が中心にある配位多面体(S-八面体)の結合を描いている。
図2.本研究で推察されたMgSiO3系(灰色の点線)とAl2O3成分を含有したMgSiO3系(青色の実線)の水の飽和条件下での可能な安定関係。D:D相、Brg:MgSiO3ブリッジマナイト、Al-D:Al-D相、Al-Brg:Al含有MgSiO3ブリッジマナイト、Liq:液相、MSH:残存したMgO-SiO2-H2O成分。( )付きと( )無しの安定領域は、それぞれAl2O3成分を含有していない系と含有している系の領域を示している。IW(Ito & Weidner,?Geophys. Res. Lett.?13, 464–466, 1986)およびOh(Ohtani et al.,?Phys. Chem. Miner.?27, 533–544, 2000)は文献から引用したデータである。赤色の?印、●印、↓印は、それぞれ本研究での高圧結晶成長実験における最高保持温度、急冷温度、徐冷パスを示している。青色の長い点線矢印と短い点線矢印は、それぞれD+MSHとBrg+H2O間の相境界および液相線がAl2O3成分を含有することによって高温側へ移動することを示している。
研究のポイント
- 地球深部における水/水素の貯蔵庫の一つと期待されるD相と呼ばれる高密度水酸化マグネシウム珪酸塩にアルミニウムを導入することによって、水素含有量が増加するとともに、その安定領域がこれまで考えられてきたよりも高温高圧領域にまで拡張することを明らかにしました。
- この安定性の向上に、珪素をアルミニウムが置換することで生じる陽イオン間斥力の緩和効果が大きく影響していることを明らかにしました。
- 沈み込む海洋プレート(スラブ)によって下部マントルへ運ばれた含水素鉱物相の分解で放出された自由水と周囲のブリッジマナイトとの反応で生成したアルミニウムを含有したD相が、地球深部での水/水素の循環メカニズムに重要な役割を果たしていると期待されます。
論文情報
- 題 目:Aluminous hydrous magnesium silicate as a lower-mantle hydrogen reservoir: a role as an agent for material transport
- 著 者:Akihiko Nakatsuka, Akira Yoshiasa, Makio Ohkawa & Eiji Ito
- 雑 誌:Scientific Reports
- D O ?I:https://doi.org/10.1038/s41598-022-07007-8
- 掲載日時:2022年3月4日
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謝辞
本研究は、以下の科学研究費補助金の支援の下で行われました。ここに謝意を表します。
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